2023.07.14

双海で暮らせば ~全国に広めたい双海のとっておき~

「しずむ夕日が立ち止まる町」と称される愛媛県伊予市双海町。何ひとつ遮るものがない伊予灘の海は、空と海の境目が溶け合うように美しく、多島海で知られる瀬戸内では珍しい風景だ。夕暮れ時のJR下灘駅のホームと電車の影が夕日の橙に移り込む風景は幻想的でどこか懐かしい。一次産業が盛んな双海町は、鱧を始めとする水産物から柑橘や栗といった農産物まで里山・里海の豊かさがある。しかし、今やほとんどの市町村が抱えるであろう、過疎化や高齢化といった課題に双海町も例外なく直面している。

今回お話を聞いた方
ふたみファンクラブ/地域おこし協力隊
上田 沙耶さん
Saya Ueda
2020年に地域おこし協力隊として愛媛県伊予市双海町へ移住。祖父母が経営する商店の2階にある、10数年前に閉店した喫茶店「喫茶ポパイ」を、2021年3月に再オープンさせた。
2020年に地域おこし協力隊として愛媛県伊予市双海町へ移住。祖父母が経営する商店の2階にある、10数年前に閉店した喫茶店「喫茶ポパイ」を、2021年3月に再オープンさせた。
双海を全国に発信したい
2020年に地域おこし協力隊として双海町に移住した上田沙耶さんは「ふたみファンクラブ」を立ち上げた。主な活動として、「ふたみおうち便」による双海の産品をネット販売している。自ら生産現場に赴いて目利きした商品ばかりだ。双海に来る前は、横浜で大学生だった沙耶さん。元々双海には祖父母が住んでおり、毎年夏休みに家族で帰省していたという。夏の思い出が鮮明に残る中、3年間を通じて双海のさまざまな季節に出会ってきた。「双海はとても一次産業が盛んな街で、鱧とか柑橘というところで漁師さんや農家さんがいる。その人となりも含めて魅力だなと思っていて、双海という豊かな町で暮らしている人たちが獲ったものだというのをアピールしたいなと思っています。」と上田さん。
双海の鱧
その中でも特に印象深いのは「鱧」だ。双海に移住してくるまで鱧という名前すら聞いたことがなかったという。「鱧って何ですか?と聞いたら、『ヘビみたいなやつだよ』と言われて想像もつきませんでした。でも魚屋さんに行って、骨切りとか加工工程を見せていただいて、捌くのが難しいことを実感しました。でも、その職人技がすごく魅力的だったんです!」。出会って、見て、食べて…体感したからこそその本質を理解し、おすすめできるのだろう。「すごいのは捌く工程だけではなく、漁師さんが鱧を揚げる漁法からこだわりがあって。傷ひとつ付けないように丁寧に網を引き上げていて、そういう全てのこだわりを聞いて格好良いなと思いました。だからこそ愛媛の外にもっと出していくべきだと思っています。」と言葉も熱を帯びる。ここまでお話を聞いて、上田さんの強みは「外の視点と内の視点を持っている」ことだと感じた。外から俯瞰的に双海をまなざすことで生まれる発見と、幼い頃から祖父母の住む町として通い、地域の方との交流や繋がりがあったことが、地域に溶け込みながらも新しいことづくりができる理由かもしれない。
喫茶ポパイ
もう一つ、上田さんと双海を語る上で欠かせない「喫茶ポパイ」。祖父母が営む商店の2階で、窓からは伊予灘の穏やかな海が広がる。2021年に上田さんの手によって、土日限定で再び喫茶店として動きだした。今の上田さんの活動には幼少期の思い出が影響しているように思う。「1階が商店で2階がレストラン。レストランはほぼ休業状態の様子しか知らないんですけど、幼い頃に1階の商店で店番をして「すごい、お孫ちゃんかい。」と地域の方に声をかけてもらうのが楽しかったっていう思い出が残っていますね。」そう振り返る上田さんの声はどこか弾んでいる。
しかしながらその一方で、年数が経つにつれて祖父母の口から「この町は人も居なくて、もう商売もやってられんわ。」という言葉をよく聞くようになったという。その言葉を聞く度に上田さんの中の「なんとかしたい」という気持ちが大きくなっていった。実際に、「喫茶ポパイ」を再始動した時には、昔馴染みのお客さんが「何十年ぶりに(喫茶ポパイのあるフロアに)上がった」、「また始まったんやね」と懐かしむ姿が忘れられないという。レトロな内装はかつての喫茶ポパイがその名残をみせている。地域の小学生がスタッフとしてお手伝いに入り、新たな交流拠点としても機能している。ほっと実家に帰ってきたかのような安心感を残しながら、エネルギッシュな雰囲気が満ちた不思議と元気になれる空間だ。
双海ファンを増やしたい
上田さんの双海での暮らしはこれからも続く。今後は地域の食材を使った新たな商品開発に挑戦したいと意気込む。「最近は東京で販路探しやマルシェに出ています。しかし、まだまだ難しさを感じているところ。もっと頑張って、向こうでも双海ファンができたらいいなと思っています」。上田さんから始まった「ふたみファンクラブ」。地域を飛び出して、全国にファンの輪が広がりそうだ。