2022.03.22

世界的なアーティスト、石本藤雄さんのルーツ

明るくグラフィカルなデザインで、世界中に多くのファンを持つライフスタイルブランド「marimekko」。このブランドで32年に渡りデザイナーを務めた愛媛県砥部町出身の石本藤雄さん。

石本さんは1970年からフィンランドに拠点を移し、marimekko のテキスタイルを手掛けた。その後、同国老舗陶器メーカー「アラビア」のアート部門の一員として陶芸制作にも取り組む。カイ・フランク賞、フィンランド獅子勲章プロ・フィンランディア・メダル、日本では旭日小綬章など多数を受賞。2020年からは愛媛を拠点に活動を行っている。

今回お話を聞いた方
テキスタイルデザイナー/陶芸家
石本藤雄さん
Fujio Ishimoto
1974年から2006年まで、マリメッコ社(フィンランド)でテキスタイルデザイナーとして活躍し「和のデザインと北欧のデザインを融合させた日本人」として世界的にファンの多い石本藤雄さん。陶芸家としても、アラビア社(フィンランド)のアート部門に属し、草花や果実のレリーフをはじめとした表現力豊かな陶芸作品を多数生み出してきた。2020年より故郷愛媛に拠点を移し、新たな創作が期待されている。
1974年から2006年まで、マリメッコ社(フィンランド)でテキスタイルデザイナーとして活躍し「和のデザインと北欧のデザインを融合させた日本人」として世界的にファンの多い石本藤雄さん。陶芸家としても、アラビア社(フィンランド)のアート部門に属し、草花や果実のレリーフをはじめとした表現力豊かな陶芸作品を多数生み出してきた。2020年より故郷愛媛に拠点を移し、新たな創作が期待されている。
愛媛が誇るアーティスト
明るくグラフィカルなデザインで、世界中に多くのファンを持つライフスタイルブランド「marimekko」。このブランドで32年に渡りデザイナーを務めた愛媛県砥部町出身の石本藤雄さん。 石本さんは1970年からフィンランドに拠点を移し、marimekko のテキスタイルを手掛けた。その後、同国老舗陶器メーカー「アラビア」のアート部門の一員として陶芸制作にも取り組む。カイ・フランク賞、フィンランド獅子勲章プロ・フィンランディア・メダル、日本では旭日小綬章など多数を受賞。2020年からは愛媛を拠点に活動を行っている。
ヘルシンキの景色
「フィンランドのヘルシンキに行く前はデンマークのコペンハーゲンにいて、11月上旬だったので落ち葉が舞うような、季節はまさに秋でした。ところが、そこからヘルシンキに移動すると、全く別の景色が広がってたんです。飛行機の窓から見えたのは真っ白な風景。本当に真っ白で感激しました。その景色からスタートしたから、フィンランドのイメージは最初からすごく良かったんですよ。あの景色を最初に見ていなかったら印象はまた違ったものになっていたかもしれないですね」。 フィンランドの首都ヘルシンキは人口61.3万人で同国最大の都市。可愛く洗練された雑貨や美しい自然が集まり、北欧ならではのゆったりとした空気が流れ、景色が美しいことでも有名である。バルト海と暖流のメキシコ湾流の影響により、高緯度のわりには寒さが穏やか。とはいえ、2月の平均最低気温はマイナス8℃、最高気温はマイナス2℃。そして冬場は曇りの日が多い。逆に夏は一番暑い7月でも涼しく快適に過ごすことができる。 長い年月を北欧の地で過ごした石本さんだが、その作品には花や実など植物をモチーフにしたものが多い。その理由を聞くと「フォルムが好きなんだよね。実はコロンとしててかわいいでしょ。みかんとかは子供の頃からよく手にしていたものだし」。 作品づくりのインスピレーションは、フィンランドでの景色や季節の移り変わりから受けた。それから幼い頃の記憶もその一つだという。「同じ植物でも例えば「アヤメ」にしても、日本で咲いているアヤメとフィンランドで咲くアヤメはものが全然違うんですよ。昔の記憶を頼りにその時の情景やそのものを想像しながらデザインしたり作品を作ることが多いですね」。 作品づくりの時に石本さんが頭の中に思い浮かべていたのは故郷の景色とは。
石本藤雄さんの原点
「実家はみかん農家でね。僕も小さい頃はみかん畑の手伝いをしてましたよ。昔から絵をかくのは好きだったけど、どちらかというと工作が好きで。家にみかんの箱が沢山あったからね。箱といっても今は段ボール箱だけど、昔は木の箱だったから、それを壊して色々作っていましたね」。 「それから実家があった場所は、昔焼き物をしていたある屋敷の跡地に建てられた家で。その名残で登り窯があって、それを遊び場にしたりしてたなぁ」。 石本さんのふるさと砥部町は約240年の歴史を持つ伝統工芸品「砥部焼」がなによりも有名。砥部焼は、ふっくらと厚みのある白磁に呉須とよばれるうすい藍色の染料で唐草などをモチーフに手書きされた模様が特徴で、愛媛県指定無形文化財にもなっている。現在は約100軒の窯元が同町には点在し、最近では伝統も大切にしながらより自由な発想で作られた砥部焼も多く登場しており、若い世代にも人気が高まっている。色も従来の藍色だけではなく鮮やかなものや、より現代的なデザイン、また器の厚みも薄いものなど、時代の変化に合わせて進化している。また、年に数回窯出し市やイベントなどが行われ地元の人や窯元が一丸となって、砥部焼を広く継承していっている様子が伺える。そんな愛媛ならではの、みかんや砥部焼が身近にある環境で石本さんは生まれ育った。 さらに、石本さんは忘れられない「音」があるそうで、「家の近くにはマツの山があって、その『音』がすごく記憶に残ってるんだよね。マツの葉が落ちる足元には茂みがあって、耳を澄ますと、マツ同士がこすれる音がするんです。いわゆる『松風』あれをもう一度聞きたいなぁとふとした時に思います」。 故郷の景色や音や匂い。そういったものをフィンランドの地で思い出しながら、石本さんらしい数々のデザインや作品は生まれていった。
着物の色合わせ
愛媛の高校を出た後、東京藝術大学美術学部工芸科グラフィックデザイン専攻に入学。卒業後、最初に入社したのは着物の取り扱いを行う老舗の衣類専門商社だった。そこの宣伝課で広告デザインを手がけた。 「僕のベースになっているのは『着物』の色使いや組み合わせでね。この会社に入ったことですごくその感覚が養われました。昔のヨーロッパでは同調やハーモーニーを感じる色使いというのが人気だったけれど、日本の着物はその逆で『対比』。その対比で美しさを表現していて。色もそうだし、例えばジオメタリック(幾何学模様)に花柄を合わせるなど、柄でも対比が使われます。その組み合わせ方を学べたことが、自分のベースになってますね」。 石本さんならではの独特の色の使い方や組み合わせは、着物から来ているということを知ってから改めて作品を見てみると、なるほど…!とすごく腑に落ちる部分がある。
故郷愛媛に帰ってきて
「やっぱり愛媛のよさは石鎚山や海など豊かな自然だと思います。それから、この間砥部焼会館に行ったらすごい絵付けを見つけたんですよ。江戸時代のものなんだけど、すごく自由な発想の手書きのものでね。昔ながらの砥部焼とはまた異なっていて、鳥やモミジなんかが描かれているんだけど、全く古臭くない。まるでフィンランドのあるデザイナーの作風を彷彿とさせるようなものでね。あれはリバイバルさせたいなぁと思いましたね」。
作品づくりやデザインを考えることは今後年を重ねても、ずっと続けていきたいという石本さん。その創作意欲は留まることを知らない。圧倒的なセンスはもちろん、今回インタビューをしてみて、優しい口調で話す石本さんの穏やかさと柔軟な発想が作品の魅力としてにじみ出るのだと感じた。故郷の愛媛で、これから石本さんの手によって生まれる作品や企画が楽しみでたまらない。(聞き手・文=宮嶋那帆)